「怒り」

観に行きました、良かったです。原作は読んでないんですが、読もうか迷ってます。
ネタバレありです。


すごく良かったんですけど、あるシーンが心抉ってくるんでそれがもう辛くてもう1回行くのを躊躇ってしまっています。

脚本、役者さん、映像、構図、音楽、全部良かった。
2時間以上ある映画です。これは2時間以上掛けて描かないと無理だと思います。
だからといってダラダラした場面はないし、無駄のない映画だと思います。


一つの殺人事件を軸に描かれる4つのストーリー。
東京、千葉、沖縄、そして犯人を追う警察のストーリー。


東京の華やかでスタイリッシュな光景、所謂BLのようなファンタジー的な同性愛ストーリーではないゲイの生々しいハッテン場、沖縄の綺麗な蒼い海、魚の匂いが伝わって来るような千葉の生活感溢れる港街。
沖縄の海の映像は本当に綺麗でした。


映画を見終わって、人を信じることの難しさを感じました。
大切さというよりは難しさ。
好きな人を信じてあげなければ不幸になるパターンもあれば、疑わなければならなかったパターンもあるからです。


自分の趣向もあるんですけど、東京編が一番好き。優馬と直人の想い合っているのに心打ち解けるのに時間がかかる様とか、純愛。
最初は無理くり系ですが、コンドームきちんと使っているのがよかったです。
優馬が直人を大事にしているのが睦み合いの時の仕草だったり、仕事から早く帰ってくるようになって土日は家にいるようになったという描写から分かって愛おしかった。夜は男漁って、友達と飲み歩いて、出会い系で男探していたのに、直人のことどんだけ好きなんだと。
ベッドシーンは色気あるんですけど、台所での何気ない会話とか服着た状態でひっついているシーンとか、そっちも十分色気ありました。
一方の直人はどこから来たのか何故仕事もしていないのか何も話そうとしないのかミステリアスでしたが、最後のシーンで「ああ!そういうことね、そうだったんだ、うわーじゃああのホスピスのこととか妙に色白だったのは…」って切なさ満載でした。


で、沖縄のストーリーがものすごく重いので、東京編が無いと心もたなかったです。
そういうシーンはある程度見慣れているんですけど、今回はものすごく感情移入してしまった。

沖縄の基地問題、反対する人もいればそうでない人もいる。今思えばあれフラグだったのかと。だからって、え、モロにそのシーンやりますか、という驚きでした。

夜の那覇で男友達とはぐれた泉が米兵二人に襲われて公園で暴行されるシーンは衝撃でした。
まず、男二人がかりということと、誰にでも発見されそうな公園で堂々と暴行されているということと、泉がおそらく処女だろうということ。
(処女じゃなければOKっていうわけじゃなくて)
これと同じようなことが沖縄で実際に起きていること。
そして、おそらくこの米兵たちは何のお咎めも無いんだろうという絶望感。

基地問題のことは知っている泉だから、襲われている時の表情は、暴行されている恐怖辛さ悲しみ怒りに加えて、この男たちが罰を受ける可能性が低いことへの絶望が込められているように思いました。
これがもし相手が米兵ではなかったら。訴えれば捕まえてくれるかもしれない。でも今回のシーンにはそんな最低限の救いすらないかもしれない。
それが観ていてわかったので、今までのどんなレイプシーンよりも恐ろしくて、心にずしんと来ました。


そして沖縄編の最後が映画のラストシーンでもあるんですけど、広瀬すずさんの表情が全然違っていて印象的でした。
レイプされて、その上男友達が自分のために怒ってくれてある殺人を犯してしまう。

そりゃ叫ぶでしょう。叫びたくもなるわ。って思った。


あと出てくる人たちがちゃんと沖縄の人の顔してたのがよかったです。



映画全編通して、どのストーリーもセリフのやりとり、間の取り方が丁寧で、抑えられた演技もしているからこそ、あるシーンで各々が叫んだり泣いたりするシーンがぐっと来ました。
普通だったら「抑えた演技がー」と評価されるのかもしれないですけど、感情を思い切り露わにすることは悪くないし、この映画については、自分としては違和感なかったです。


千葉編は、最後はハッピーエンドだったので安心しました。
疑って、それが間違えだったと知ったときの親子の悲しみ。愛子の絶叫が切なかった。
恋人を迎えに行って帰ってくるときの愛子の表情が成長した表情になっているのがよかったです。


東京編。
優馬と直人の会話でお墓のシーンと、それについてのやりとりがあってそこが一番よかった。
墓に一緒に入るか?というやりとりがあり、それから後日、夕焼けを二人で眺めながら「一緒は無理でも隣りならいいよね」的なセリフがあるんですけど、そこで涙ちょっと出ました(これ多分そっち系の方たちが創作で今後使いそうなセリフ)。

原作にはもっといろんなシーンがあるみたいなので、いつか読んでみたいと思いました。

で、映画の軸となっていた殺人事件なんですけど。
被害者二人以外に被害家族は出てこなくて警察だけなんですよね、出てくるのは。だから話がブレずに、東京千葉沖縄の3つのストーリーと、警察というストーリーが綺麗に嵌っていました。


音楽は使いすぎず使わなさすぎずで絶妙でした。


映画を見てから予告を見ると、これはそういうことだったのかと発見があって面白いです。
よく、予告では「こう見せかけといて実は違う」という引っ掛けがあるんですけど「怒り」の予告はそのままです。
強いて言えば優馬が「お前のこと疑っているんだぞ」と直人に話しかける部分かな。あれは殺人とは関係なく、素性の知れない直人のことを疑っているだけのセリフ。
愛子が「警察に電話した」と涙ながらに話すシーンは、そのままの意味で、恋人を疑ってしまって通報した。
愛子が泣き叫び父が玄関で崩れ落ちるシーンは、あれも意味があります。


予告でも出てくる犯人の写真は、綾野さん松山さん森山さんを足して3で割ったような写真なので、よく出来ていると思いました。