0号室の客
最終話です(第4話)。やっと書けました!
「ジャガー…っ」
「俺さえ…あの日お前のこと諦めていれば、今頃ジミーとアメリカで優雅に暮らしてたのに………それやったらお前………っ!!?」
激怒した奈美がジャガーの頬を思いっきり抓る。
「何言ってんの!あの時私はジャガーを選んだの!!一度も後悔なんかしたことない!!」
「じゃ…何で写真…」
「ケースから出して見てっ」
渋々パスケースを確かめる城田。すると、写真の右端には自分の姿が。しかもピンクの蛍光ペンのハートで囲ってある。
「あ!」
奈美はそれを見て、笑顔で城田の横に座る。
「私ジャガーのこの目が好きなの。私を見つめるこの切ない目。この写真見るとジャガーに愛されてるって気がするの」
「…するの?」
「それでも私と離婚したい?」
「でも、俺はお前が思ってる男じゃないし………」
「私が思ってるような男って?」
すると城田、渋い声で
「コーヒーをブラックで飲むような………ロックな男…っていてててっ!」
呆れた様子で再び城田の頬をつねる奈美。
そんな城田は戸惑いながら、頬を押さえばっと立ち上がると、
「お前は俺が音楽雑誌しか読まへん、ロックな男やって思うてるやろ!?酒はバーボン、カラオケ行ってもロックしか歌わへん男やって…15年以上…俺は期待を裏切ったらアカン思うて、ブラックコーヒーを無理して飲んでたっ。ほんとは牛乳と砂糖を入れたいのにっ」
「そんなこと言ってくれればいいじゃな〜い」
「言うたら俺に幻滅するやろ!?」
「何で?」
「何でって………元々ジミーと付き合えるような女やし」
「前にも言ったと思うけど、私、ジミーと付き合ったことなんかないから」
「じゃあ何でジミーに声かけたんや!?」
「う………それ言わせるの?」
「言えやっ」
「………………昔、柄の悪い男に声かけられて困ってたとき、たまたま通りがかったギター持ったリーゼントの男が私を助けてくれて…」
*****
「オラァッ」
男に返り討ちに合い、殴り飛ばされるジャガー。しかし、ジャガーは手を押さえながら、
「俺の手は・・・人を殴るためにあるんじゃ・・・・ギターを弾くためにあるんや」
*****
「すっっごい臭いセリフだったけど、何か人間味感じちゃって。その人のことが気になってしょうがなくて、それで、バンド好きの友達に調べてもらって、ジミーのバンドの人だって聞いて………ジミーに声かけて………あなたに近付いた」
その言葉に城田は慌てて、
「いやいや、あの…たまたま通りがかったん違う。アノ日、お前に一目惚れしてついつい付いてしまって、それで、お前が変な男の人に…」
「え?そうだったの?」
「で、それからずっとお前のこと探してた。そしたら………」
二人があの日、スタジオで再会した時のことが思い出される。
「あの時、運命や、そう思った。でも今は………。アイツはアメリカで活躍するミュージシャン。俺は仕事辞めた無職の40男。少しはアイツについてた方が良かったて思うてんちがう………」
「もういい加減にして!!!!!」
激怒する奈美に、城田はうろたえる。
「私は、私は………!ジャガーが自分の部屋でちびちび日本酒飲んでることもっ」
「え!?」
「カラオケで鳥羽一郎を歌ってることも」
「え!!??」
「甘い缶コーヒー朝昼晩飲んでることも知ってるよ?」
驚愕する城田。
「そんなの全部ひっくるめて、私が好きなのはっ………初めて出会った時から、ジャガー!!」
奈美の剣幕の凄身にビクッとする城田。
「じゃない!!!しろたやすお!!!!!」
*****
フロント。ホームレスの男が、支配人に尋ねる。
「ここには点数を測る機械があるって聞いたんだが。みんな、どんな顔をして帰って行かれるんですか?」
「皆さんそれなりの顔をして帰られます」
「ふ……ははははははっ」
支配人の言葉に、ホームレスの男は髪をぼりぼり掻きながら豪快に笑う。
「ははははは」
2人は互いに笑い合う。
*****
「そもそも私、かっこつけてるジャガーをかっこいいと思ったことないもん」
落ち込んでイスにもたれるジャガーは、奈美の意外な言葉にまたも驚く。
「ジミーから私を奪ったときのことだって全部知ってるよ〜ん」
「嘘やろ!?」
*****
そう、あの日の真実は………。
「つまり奈美を譲れってことか?やるならきっちりけじめつけようぜ」
「うわあああっ!!!」
ジャガーは叫びながらジミーに殴りかかる………じゃなくてそのまま土下座した。
「何してんだお前?」
「俺、バンドやめる!!」
「は!?」
「そして!真面目に働いて奈美を幸せにする!だから!!!一生のお願いや…!奈美を……俺に譲ってくれ……!!!」
*****
「ああああああ〜〜〜」
扇風機回して両耳塞いで奈美の声をシャットダウンしようとする城田。しかし奈美は笑顔で暴露を続ける。
「ジミーが自慢げに言ってた!!あいつを土下座させたんだって。でも、そのあとこんなことも言ってた!」
*****
「俺は女を幸せにするために夢を捨てることは出来ない。ってことはアイツの方がお前を愛している。俺の負けだ」
*****
「私それ聞いて、ジャガーに付いて行こうって決めたの。だから…貴方もちゃんと決めて…」
そして。
「は、はい!」
点数の書かれた紙を城田の元に持って行く奈美。
受け取った城田は、いよいよ決心し、そして、思い切って紙を開いた。
「は!はあぁ…」
「はああ………」
安堵する二人。
城田の点数は。
72点。奈美と同点数だった。
「俺………こんな点数高かったんや」
「私の採点だと、ジャ………安夫の点数はもっと高いよ?」
「その『安夫』っていうの何か照れ臭いなぁ」
苦笑する城田に、奈美はあのセリフをもう一度ぶつける。
「ロッカーに惚れた女の三ヶ条。三つ目、覚えてる?」
「も………忘れた」
「一つ、『一度愛した男は一生愛せ』」
「そんなこと言うたかなぁ…」
白を切る城田の頬を、奈美は正面から両手でぎゅうっと挟む。そして、
「………ごめんなさいは?」
「………………ごめんな…さい」
その言葉に奈美はにっこりと笑顔を浮かべると、城田にちゅっとキスをする。
驚く城田。そして、再び唇を重ねる。
キスをしながら、奈美は城田の胸ポケットにしまわれていた離婚届をそっと取り出すと、1.5メートルぐらい離れたところにある屑籠へぽいっと投げた。 離婚届は、緩く孤を描いて、籠にストンと入った。
同時に、傍のランプにぱっと明かりが灯る。
少し長めのキスを終え、二人は顔を離す。
「牛乳買っておうち帰ろ」
「…うん…っ」
キスに酔ったのか、ぼうっとした表情で城田は頷く。と、その時、
「あ」
「え?」
下を向く二人。
*****
「おお〜立って喜んでる」
ホームレスの男が飼い犬が2本足で立っているのを驚いている。
*****
エレベーターから降りる二人。
「よいしょ、はぁ………いやいやいや、はっはっは、ここはほんっまにええホテルやなぁ!」
「は??」
怪訝な顔の支配人を他所に、大満足の様子の城田夫婦。
「ほな!」
「おやすみなさい」
「凄い豹変ぶりだ………」
あまりの変わり様に、支配人はどん引き。
しばらく歩いて、城田はそんな支配人の方を振り向く。
「………ありがとう」
支配人は、城田に最後のお辞儀をする。
「さ、行こ」
「行こうかぁ!」
ご機嫌な様子でホテルを後にする二人を、支配人はフロントから見送る。
「点数は決して、他人と競い合うもののためにあるのではない。自分自身と向き合い、成長するために存在するのです。その使用方法さえ間違えなければ、0号室は必要な部屋なのです」
と、
「ん?」
フロントにある白髪を見つけ、おもむろに手にとる。
先刻のホームレスがぼさぼさの髪を掻いていたのを思い出す。まさか…?
*****
0号室。支配人はあの髪を使って点数を測った。
「あなたもいつか、迷った時はこの0号室にお越しください、お待ちしております」
そして、点数が入ったケースが帰ってくる。
紙を開封する。
その点数に、驚く支配人。
点数は。
100点。
100点の紙は暖炉の火の中へ………
*****
「ははははは」
ホテルの外、ライトアップされた歩道を、ホームレスの男は犬を連れ、笑い声を上げながら夜の闇の中に姿を消して行った。
ED「CRY FOR THE MOON」
<終>
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
オチが下ネタって!(爆)
犬が立っているシーンは、もうあからさまな下ネタで、流石の私も引いたわw
っていうか、やっぱり奈美さんが松岡さんの幻影に見えて仕方ないんですけど。
ダメダメ夫なのに、めちゃくちゃ愛されている城田さんが羨ましいですよ。そして奈美さんがホントに可愛い!で、ジミーがすっごいカッコいいっていうw
深夜ドラマとは思えない濃い内容で、無駄に豪華でした★