万有引力による「観客席」。
ネタバレ感想です。



3月8日に行ってきた「観客席」。
事の始まりは、美輪さんが話す数ある交遊録の中に「寺山修司」という人物がいるんですが、聞いたことはあるけどどういう人か分からなくて。調べているうちに「天井桟敷」のことを知り動画サイトで30年ほど前に公開された「身毒丸」の映像をちょっとだけ見てシーザーの音楽を知り、「田園に死す」で映像美を知り、という流れがあって。
天井桟敷の舞台を生で見てみたかったなぁ、なんて思って。天井桟敷のあとを継いだという「万有引力」の存在は知っていたけれど、できれば万有引力の解釈の舞台ではなくて、天井桟敷の舞台の再現があれば見ていたい…。そしてある時、万有引力のHPにおもむろにアクセスしたら「観客席」を再演してくれるって書いてあるじゃないですか。もうびっくりでした。
気が付いたらチケットを購入していました。
数年前にも同様に再演されたらしいんですが、まさかの2回目。もうこのチャンスを逃すまいと必死。

確か「観客席」は天井桟敷が活動の後半で演じた劇。
簡単に言うと観客巻き込み型の劇。
思っていた以上にお笑い要素があって結構笑いました。
小学生の男の子も居て楽しんでいたので、もしかしたら大人になるほど考えさせられる舞台なのかな。考え過ぎて。あの男の子のように純粋にただ楽しむのが、ある意味正解なのかもしれない。


今回は、席は自分で選んでチケットを購入する形でした。

小さな劇場に客がほぼ全員座ったところで、開演ブザーが鳴ります。
しかし何も起こらない。
しばらくして時間に遅れてきたお客さんが席に案内されて座ります。今となっては、あれは本当の客だったのか、役者だったのか…。

確かこの辺りで開演前の注意事項を役者さんが説明してくださいます。手話通訳の人も居ました。
最初はスタッフの人かと思ったけど、役者さんでした。
これも、今となっては、この注意事項から劇は始まっていたのかも。

そしてブザーが鳴ります。幕が開きます。そこにはまた幕が。それ以外何も無い。何故かジャッキーチェンの映画のBGM。
またブザーが鳴ります。幕が開きます。
またブザー、また幕が開きます。
舞台の上には、何もありません。
そして、暗転。
完全なる闇。何も見えません。目が慣れれば見えるかなと思ったけど、何にも見えない。
闇の中で役者さん達の声や音が周囲で聴こえます。笑い声、走り回る音。
この時は怖かった。何が起こるか分からない怖さ。いつまで闇が続くのかも分からない。

そして役者からの挑発。
隣の人に囁いてみないか、とか手に触れてみないか、とか。

「観客」が観客でいられるのか。役者になっていくのか。
寺山修司という人は舞台と客席の境目を無くすことを実験していた人だったらしいので、これはそういう劇ですね。

役者が観客に問いかける。

少しは興味あるんだろう?って。

観客でいたい、っていう気持ちと、舞台に上がってみたい、という気持ちが混ぜこぜになります。


暗転が解けた後に劇やダンス。また暗転、と、合間合間で断片的に劇が行われます。
それぞれストーリーは繋がっていないんだけど、意味は繋がっているというか。

役者が客席の男性に突然「そこ俺の席なんだけど?」と話しかける。指定席なので、ここは自分の席ですとしどろもどろ男性は反論する。
しばらく会話が続き、その後男性は舞台に上げられる。その男性は役者でした。男性の横で、驚いた様子だった女性も、役者だったことが後で判明。


客席のあちこちに役者がいて。

客席のあちこちで急に劇が始まる。
ご飯を食べたり。ミシンを踏んだり。洗濯物を干したり。

急に「〇〇さん、お友達がロビーで待っています」とお客さんが本名でアナウンスされたり。

客席に座っていた人が後ろを向いて「貴方の遺失物を預かっています」と観客に呼びかける。

後ろから急に川下り用のビニールボードが送られてきてびっくりもしました。


舞台の上にお客さんが上げられて劇に参加させられたり。
箱の中に入ってみないかと誘われて、その箱に入ってそのまま奈落に降ろされたりとか。あの箱の中の人、あの後どうしたんだろう?

自分が舞台を見ていたっていうのもあるし、舞台から客席を「観劇」されているようにも思えた。
私たちが舞台を見に来たんじゃない、見られているのは私たちなのか?


「ブス!」「私はバカです!」と叫ばされたり。「今夜私と寝ませんか?」と囁かされたり(苦笑)


実際に自分が起こした行動は、声を出すくらいでしたが、座っているだけで凄く体を動かした気分になりました。
能動的にさせられた感じ。

そうそう、劇が終わる時は「終わります」っていう合図も何も無かった。
カーテンコールなど無い。
お客さんの何人かは立って帰ったけど、それが本当なのかも分からないから立てなかった。
誰かが拍手して、自然に拍手する雰囲気になりました。



あと映像美がとっても綺麗でした。上手く表現できないけど、舞台全体を使うんじゃなくて、半分幕がしまった状態で劇をして、後で幕が少しずつ開いてその陰にまた誰かが何かを演じている。立体的な空間使いでした。
舞台の前列ではAという劇、後列ではBという劇が行われているような。
あと、左奥ではC、真ん中ではD、右前ではEと、バラバラに劇が行われている時もありました。


最近の映像でいうと堤監督の「TRICK」などで、主要人物が喋っている後ろで、全く関係ない人達がドラマに全く関係ない動作をやっている映像があるんですが、そんな感じです。
というか、その元ネタになっていつのがこの寺山舞台(もしくは、他の舞台の演出)の演出だったのかなって思った。


役者さんの動きもとても綺麗だった。ゆっくりと歩く動作が美しかった。女性の方もほとんど腹筋割れていて、相当な訓練をされているんですね。

1回しか行かなかったことが後々悔やまれました。
もしまたあったら是非参加したい!その時は観客として参加するのか、舞台に上がりたくなるのか分からないけれど。