この世界の片隅に

原作はこうの史代さんによる同名漫画。
映画は、太平洋戦争の戦前・戦中・戦後の広島市呉市を中心に描かれています。
とはいえ、戦争の部分を強く描いているわけでもなく、原爆のシーンも「この視点からの描き方か」という感じで、あくまで主人公たちが生きた10数年の日常を描いた作品です。


話題になっていた映画で、うちの県ではなかなか放映されず、近日ようやく公開となりました。

期待通り。
本当に、良い映画でした。
もう見終わった後は20分くらい引きずりました。
「怒り」以来です。

何だろう、うまく言葉にまとめられないです。
一つ一つ言えば、ほとんど良かったんです。泣くことはなかったけれど、じわじわきます。胸がぐっと掴まれる感じです。
玉音放送を聴いた後のすずの反応。あれは、今まで見てきた映画・ドラマ・漫画のどれにも当てはまらない反応だったので新鮮でした。
原作は読んでいないんですが、原作に書かれていた重要なエピソードは今回ほとんど抜かれているみたいで、その欠片は本編に残されているんですけど、残すぐらいならしっかり描いて欲しかったなとは思います(座敷わらしの件)。

草津の祖母の家の屋根裏に居たのは、祖母は気付いていたんだろうか?そこが一番疑問でした。


他はよかったです。

のんさんの声は、最初は絵と合っていなくて違和感があったんですが数分で慣れました。
絵はとても綺麗でした。写真のような絵ではない、そこがいいんです。絵が、絵として動いている。温かな色合い。
これってジブリの高畑監督がかぐや姫でやりたかったことじゃないかとも思いました。

とにかく動画がなめらか。表情の変化も細やかです。アニメ=動く絵とは限らないんですよね、滑らかすぎても変だし、タメを作り過ぎても違和感あるし、ちゃんと人や物が動いている映像になっていました。
動画も安定しているし、見ていて気持ちがいい。

ジャンルとしては戦争映画になるんでしょうけど、笑いもあるお話になっています。
機銃掃射という恐ろしい場面で、そのシーン持ってくるかっていう驚き。


戦時中の人々の生活は、当時はこうだったんだろうなと感じさせるものでした。
配給の仕方とか料理の工夫、防空壕の作り方。空襲警報鳴り過ぎてみんなが慣れてしまうところとか。


主人公の浦野すず(北條すず)はのんびりとした性格の女性。
それがお話が進むに連れて、あることをキッカケに感情を表に出す場面が増えていきます。その感情の出し方が胸にきました。
見ていて、誰もが分かるっていうのではなくて、これはすずにしか分からない辛さや苦しさがあるんだなって、簡単に表現できることじゃないんだなって。それを演じているのんさんも、そして絵の力も良かったです。


主題歌、劇中音楽はコトリンゴさん。
ドラマチックにしすぎず、でも単調にはしない絶妙な音楽でした。

戦争映画というと質素な生活が思い浮かびます。でも大正のときにはそれこそデモクラシーなんて呼ばれて、モダンなファッションが流行っていたし、昭和の時代にはもうサンタクロースがありクリスマスの行事もあった。
日露、日中に続いて太平洋戦争が始まり、戦況が悪化するに従って、すずの周りの人たちがどんどん亡くなっていく、傷ついていく、そしてそれすら日常になってしまっていく。
広島というと8月6日の原爆が印象に強いです。でも実際は、それよりずっと前から空襲があり、しかも広島県内でも空襲の場所には差があり(軍事工場が狙われるから)、そして機銃掃射(これは思い切り家や人を目視で狙うから本当に怖いし、撃ってる敵方の心が知れません)と数え切れないほど、何ヶ月にも渡って、軍人も民間人も犠牲になって、最後に原爆なんですよね。

物語は8月15日では終わりません。
その後の日本の海軍の解体の流れまで、結構細かく描かれていて、1ヶ月くらいで解散かと思ったらそうじゃなかったんだと新しく知ることができました。
年が明けても、まだまだ復興途中。孤児も溢れている。平穏をとりもどしている家族もいれば、行方知れずの人を探し続ける人や親と死に別れた孤児が溢れている。
その厳しい現実と、でも未来もあるという、もう何とも言えない最後のシーンにぐっときました。