映画感想「るろうに剣心 最終章 The Beginning」

るろ剣の実写版の「るろうに剣心 最終章 The Beginning」を見ました。まあまあ良かったです。

 

原作というよりもOVA「追憶編」の実写に近いと思います。スタッフロールにもそれが出ていたし(OVA=原作には無いオリジナルアニメで、テレビ放送されずVHSまたはDVD発売のみされる)。

 

余談ですが、当時追憶編が発売されたときには絵柄があまりにも原作と違っていて(アニメ版やアニメ劇場版も大概ですが)友人と一緒に非難しまくっていたのを思い出します(苦笑)ジャンプの予告ページで知ったんですよね。それくらい衝撃でした。更に余談になると、星霜編というOVAがあって、それに関しては原作のキャラ崩壊がすごい。ある意味で伝説のアニメとなっています(自分周囲で。っていうか星霜編があるからこそ、るろ剣が実写化された時にストーリが少し変わっていても何も思わなかった。ある意味合言葉として「星霜編に比べたらマシ」というのがある)。

 

というわけで今回の実写化。良いところもあるんですけど、「ん?」というところもあって、あまりスッキリしませんでした。

 

剣心の十字傷を巴が故意につけたところは良かったです。あれは腑に落ちる。いろんな解釈もできるし。原作はたまたま剣心の頬に傷ができるんですが、実写で見てみると偶然にしてはちょっと出来すぎてるし、個人的には実写版の方が好きです。

 

でまあ、色々あるんですが、最後のダイナミック火葬がダメ押しです。

じゃあ何で巴の墓は京都にあるのよ。お骨無しの墓なのかあれは。流石にあの葬り方は雑じゃない?そして山火事になりそう。

あれなら縁が激怒しても仕方ない気がする。

 

飯塚さんのキャラ造形はもうちょっと何とかならなかったのかな。アレンジする必要ある?というキャラが、ろる剣実写版には何人か出てくるんですがそのうちの一人が飯塚さん。あと片貝さんも。剣心と桂さん以外がもさっとしているので、飯塚さんみたいな飄々とした人が1人くらいいても良さそうだったのに。

 

個人的にはなんだかんだで漫画原作が好きなので、あのほのぼのしたストーリーと人斬りとの落差が好きなのですが、今回はOVA追憶編よりなので全編完全にシリアスモード。

 

最初に抜刀斎が捕らえられてる振りをしてからの暗殺シーンはアイデア的にはいいんですけど、世に出ないように気をつけている剣心があれやっていいのか?というのは気になりました。捕まってる間に対馬の人たちにバレるのでは。

 

方言のリアルさはよかったです。対馬、長州、京言葉。原作では基本的には全員標準なんで。桂さん、高杉さんのシーンを観て漫画と違う言い回しだったけども「長州だからそりゃそうか」と。幾松との絡みもよかったです。

 

池田屋シーンからの禁門の変の流れは原作の方が好きです。原作と違って、池田屋襲撃後に沖田が逃げた志士を追った先で剣心に会うんですが、そこの戦いがちょっと長かった。あのヒリヒリした感じの沖田総司はよかったので、あれはあれで別作品で観てみたいです。

そして斎藤には「沖田くん」と呼んで欲しかったわ。このあと、新撰組と長州志士は別れるんだけど、あれいいのか?新選組の掟である「敵前逃亡」に当たらんのかあれはとも思ったし。

禁門の変も「まあみんな分かってるよね」という感じであっさり終わりましたが、そのあとで小萩屋がまだ残っているのがちょっと変。あのシーンを残しておくことで剣心と巴の距離感の変化を表していたんでしょうが、原作通りに禁門の変で京都が焼かれて、剣心と巴が橋にいて、川辺に桂小五郎が身を潜めているシーンで良かったんじゃないかと思います。

 

今更だけども、京都で師匠と喧嘩別れしたあとで剣心は長州に渡っていたんですね(漫画も同様ですが)。なかなかの長旅してたんだなぁっていうのと世を変えるためには倒幕の長州を選んだんだなって思ったり。

ここは剣心の甘い考えがあると思っているんですが、倒幕して新時代を作れれば人々の幸せは来ると思ってるところ。本当は、誰がこのあとどんな風に国を治めていくかが大事だと思うんだけど。そこは長州の志士たち、桂さんもまだ存命だったし、剣心は信じてしまって流浪の旅に行ったのかもしれない。

 

よかったところは有村さんの巴。原作漫画では作者自身がものすごい反省しているんですけども、所謂エヴァの「綾波もどき」「クールビューティさが不十分」になっていた巴が、「これがそうか」って思えるくらい巴として完成していた気がします。

何を考えているか分からないというよりは、恨み辛みで抜刀斎に近づいたものの、だんだんとその心情を知っていって、どちらかといえば罪の意識を持ってもらいたいとか、人斬りを辞めるように静かに説得していくというか。抜刀斎に対して「あなたも犠牲者なのではないですか」みたいなセリフを巴が言うところがあります。これは原作にはないセリフですが、これとても良かったなと思いました。

 

巴に取って見れば幸せを奪った憎い相手なんだけども、剣心が罪を悔いてくれて、すぐに剣は捨てれないけどもいつか人のために生きていくと約束してくれたことで、巴の中でひとつ区切りがつけたんじゃないかと思っています。考えてみれば、いつだって剣心を討てたはずなのにそれをしなかったのは、巴の優しさもあると思っています。自分もまた剣心の命を狙って策略に加担した時点で、被害者・加害者という構図にはならず、巴自身も罪を背負ってしまった。そこの負い目があったんだろうなと。

 

闇乃武との戦いは、もうちょっと描いても良かった気がします。剣心が巴の正体に気づいていなかった原作と、気づいてしまった実写化とでは、全然違ってしまうので仕方ないんだけども、あれだと闇乃武と剣心の戦いがふわっとしてしまってる感じがしました。

ただ、「結界」云々の戦いは原作のまま実写化したら変になるところをぎりぎりリアルな戦闘に仕上げていてそこはすごいと思いました。漫画だと、敵方も剣心も結構しゃべってます。辰巳が喋ってはいますが、原作ではもっとベラベラしゃべっているんで。

 

巴が死んで、その遺体を剣心は家まで運んだんですね。そこで剣心が食事しているのが違和感がありました。蛍の墓みたいで。

ただ、あの時に巴の日記を剣心が最後まで読んでいて、自分のために巴が命を賭してくれたからこそ自分も生きようと思ってああいうシーンになったのかと考えれば分からないでもないんですが。

ただ家ごと焼き払うのはちょっと雑に見えてしまいました。

 

そこから鳥羽伏見の戦いに繋がり、実写版第一回目のシーンにループするのは良かったです。

 

 

結局、原作が一番だし、映像としては(絵柄のあれこれを抜けば)OVA追憶編は名作ですし、剣心の心の揺れ動きだとか葛藤はそこで描かれているので実写版で改めて発見することは少ないんですが、実写映画としてはクオリティが高いと思います。

 

キャラデザインをほとんど変えずに実写化したデス・ノートは本当にすごいなと思うんですけど、るろ剣は逆に原作とキャラデザインを変えるところは結構やってます。左之助がほぼ原作通りなのが今振り返るとよく変えないでいてくれたと思えるくらい。

薫の大きなリボンを無くしたり、剣心の赤髪・赤い着物を周囲と浮かないぐらいの色合いに治めたり。そこが上手い。

 

攻殻機動隊押井守が監督した時に原作とはテイストがかなり違っていましたが、大友監督の剣心映画もそっちに近いと思います。

 

ただ、この映画がきっかけで和月が書き下ろしの漫画をわざわざ描いてくれたり、北海道編の連載を始めてくれたので、るろ剣が実写化されて良かったと思っています。

 

本当に、本当に思い入れいっぱいの作品であるるろうに剣心

演じてくれた役者さんたち、監督さんたちが、漫画へのリスペクトを持ちつつ、キャラのことをよく考えて演じてくれているのが伝わってきます。