映画「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら」

映画「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら」を観に行きました。

 

結果をまず言うと、とても良かったです。

個人的には今年の邦画ベスト3に入ります。

 

その理由としては、ストーリーの筋が通っている、伝えたいであろうことが伝えられてる、映画の始まりと終わりが綺麗(特に終わり方)、キャストの演技が上手い。

 

減点ポイントと言えば、あの時代に人前で彰と呼び捨てで呼ぶより彰さんの方がよかったんじゃないかということ。音楽の入れるタイミングがちょっとベタ。

 

それ以外は大きく気になることはなかったです。

 

そもそもこういうキラキラ系恋物語映画は観る気はないし、予告で観たときも「タイムスリップしてきた女子高生と特攻隊員との恋って」と失笑でした。

 

実際は、かなりシリアス。まず主人公の百合はほぼ最後まで特攻隊について批判的です。最後も特攻を肯定したというよりは、特攻隊員の佐久間彰が信じた未来を、きちんと生きようと思った。そういう締め方でした。彰への恋をひきずるのではなく、今ある環境が幸せであることや親の愛情にも向き合うことで自分に嫌みを言う相手にすら笑顔を向けられるようになる。その終わり方がすごくよかったです。

 

空襲に襲われたときも百合が叫んだのは「おかあさん」。彰ではなく母親でした。なんかここも良かったなぁって思いました。

 

百合は母子家庭。父親は他人の親子を助けて溺れ死んでしまった。母親はそれを誇りに思っているけど、結果母子家庭になり貧乏になり母親が朝から晩まで苦労して働いている姿を百合は見ているわけで、父親への恨みもあるしそんな父を誇りに思ってる母にも反発しています。まあ良い子なんですよね。自己犠牲に対する批判。その流れで、ニュースで特攻の特集を見て「自爆じゃん」と吐き捨てる百合。百合が住んでる地域は昔特攻基地があり、そのため空襲にも遭ったことがさらっとニュースで紹介されてます。

時期は6月。

終戦前ですし、基地があった地域で資料館もある場所なので、この時期に特攻のニュースが流れるのもリアリティあるし、百合が特攻そのものに興味はなくても、同じ自己犠牲を賛美するようなことに父親の行動を重ねているのもすごくいい導入だと思いました。

 

ふとしたことで1945年の6月にタイムスリップするわけですが、この映画ではタイムスリップの原因とか戻り方とかはすごくラフで、でもそこ以外はきちんと描いているから、まあ振り切ったなって思います。

映画って大きな虚構があっても、他が丁寧に描かれている事の方が大事なんで。

 

昭和に来てしまったことを知った百合が防空壕に戻ってパニックになるのもリアルでよかったな。

 

基本的に登場人物全員優しいんですけど、食堂の鶴さんは子供や孫を空襲で亡くしているし特攻隊員の女将さん的存在なので百合に優しいのも分かります。着物が若干派手ですが、子供が使っていたものを流用しているので、まあ別に違和感ないかな。和服って意外と派手なので。

百合が着物着るときにあわせを逆にしてしまうのも演出として細かいと思いました。

 

偶然出会う彰が百合に妙に優しいのも、故郷の秋田に残してきた妹の面影をみたからというのも納得がいく。

ちなみに百合はこのとき洋装で若干短めスカートですが、そもそも日本人は戦争が悪化する前は洋装の人もいたわけで。そして戦時中も西欧人は日本にいたので、多少浮きはするけども、時期的に戦争末期だからどこかのお嬢さんが疎開してきたとか思えば、ものすごく変なことでもないとは思います(他作品で言えば、「この世界の片隅に」やジブリの「風立ちぬ」で女性のスカート姿が描かれてますね)。

 

母子家庭で家事手伝いが日常だったと思われる百合が、住み込み先の食堂でそれなりに上手く出来ていたのも納得がいく。

 

原作は小説ですが、これって百合の設定が母子家庭で父親が他人を護るために死んだというのがものすごく効いてると思います。そうでないとストーリーに説得力がない。

 

大事な人を亡くしているからこそ、百合が特攻隊員に命を大切さ、自爆攻撃のおかしさを訴えるのも分かる。

 

で、特攻隊員たちも、それに困惑はしても、だからといって一緒に逃げようとか、日本を疑うとかそういうことはしなくて、今ある自分の任務を全うしていくのがとてもよかったです。

 

彰と百合の話の一方で、他にも特攻隊員が出てきますがそのひとたちもみんな個性があってよかった。特に石丸。それに憧れる女学生の千代。現代人の感覚で特攻の批判をする百合とは対照的に、その時代を生きる千代は多くは語らず、石丸を慕い、最後も無言で人形を渡します。そのシーンも良かったな。石丸は最後まで明るく振る舞っていて、その笑顔が印象的でした。伊藤健太郎さんが演じていますが、すごく良い声、いい表情だと思いました。

 

恋模様については、彰はあくまで百合のことを妹の代わりとして接しようとしていて、百合も、自分は妹の代わりなんだなと思いながら接しています。薄々その気持ちに感じながらも、恋していることに気づいたのはおそらく現代に戻ってからなんでしょう。

社会見学の一環で訪れた特攻隊員の資料館。そこで百合は特攻隊員たちの写真に出会います。ある者は無事に逃げて、余生を妻と一緒に全うできた。ある者は特攻として死んでいった。その顔写真と、自分に宛てた手紙が資料として展示されているのを観て、初めて百合は彰の本意を知ります。

ここはベタな展開ですけど、そりゃ感動しますよ。特攻の結果はどうだったか分からない。途中で撃ち落とされた人の方が多いだろうし、少しでも敵の船にダメージ与えられたかもしれない。

 

物語はここでも終わるのではなく、百合が自分自身や自分が置かれてる環境を見つめ直すというのがよかったです。

 

エンディングは福山雅治さんの曲。歌詞が映画の内容そのままなので、ベッタベタな感動曲ですが、素直に泣けますよ。卑怯ですよ、あれは(褒め言葉)。

 

クレジットに隼操縦席監修とあったので、多分特攻隊員が乗ってたのは隼ですかね。

 

空襲シーンではしっかり人が焼け死んでるところも短いながらあって、機銃掃射で撃たれるシーンもあり、孤児が死んでしまったシーンがショックでした。

意外と、B29から焼夷弾が落とされて街が焼かれるのを描くシーンってあんまり無い気がするんですよね。

だから珍しいなって思いました。

 

全然期待していなかった分、決して大作映画ではないし少ないであろう予算の中でそこまで壮大に映せない中で、人間模様は丁寧に描かれていて良作だと思いました。

 

ストーリーの綺麗さで言うと今年ベスト3に入ると思ってます。