映画「陰陽師0」観てきました。
良かったです。
2001年の「陰陽師」は、あれはあれで良いんですが、今回は陰陽寮やそこでの仕事をもう少しリアリティもって描いているのと、五行の考え方や「呪術」について割と現実的に描いているのがよかったです。
超常現象ではなく、あくまでも言葉の力、仕草、催眠や暗示、幻覚が見やすいように香を焚いておくこと。そこまで言っちゃうんだっていう。
まあその中で、一応晴明は本当に不思議な力を持っているけどね、という終わり方でしたが、そこまで現実離れもしていなくて。
「呪(しゅ)」についての考え方は、思い込みみたいな解釈だったので、どちらかといえば自分は原作の解釈が好きです。呪とは名。そっちのほうがしっくりくるかな。呪術の考え方は本作の通りだと思います。
本予告で晴明が龍と対峙して飛んでますけど、あれはそれぞれの意識の中での出来事という、現実世界ではないよという断りがあって。現実世界では建物も壊れてないし怪我もしてない。
でも心をやられたら現実に戻ってもやはりダメージは負ってるよね、という話。
博雅は意識の中で起きたことも現実世界で起きたことも自分にとっては事実だと言うんですね。そこが博雅らしい純粋さ素直さでいいなと思いました。
真実は人それぞれあるが、事実はひとつしかない、という晴明の言葉もよかったです。
あと、途中まで忘れてましたが陰陽師って博雅が女性に恋をする話が割と多いので、この映画は結構恋愛要素が強いです。
徽子(よしこ/きし)女王が着ているのが十二単ではなく細長という着物が綺麗でした。岡野版「陰陽師」で真葛が着ている着物ですが、これ細長っていうんですね。
オリジナルキャラだと思ってましたが実際に居る方だったことをあとで知りました。
当時は斎宮に務めるというシステムがあって、皇族の未婚の女性の誰かを占いで選んで伊勢などの斎宮に務めるという仕事があったそうです。神に仕え、潔斎しながらの生活を送り、男と交わることもなく。年3回ほど祭事を行う。
徽子女王の場合は8歳で選ばれ、準備期間の後、10歳で伊勢に渡り、17歳で京都に帰ってきたそうです。
今回の映画はそんな徽子が20歳になった頃。
映画では、従兄弟の博雅に密かに恋をしている設定で、村上天皇に嫁ぐのを嫌がってそこから話が転がり始めます。天皇に嫁いだのは史実。
映像も綺麗だったし、最初に少しだけ当時の言葉遣いの再現もあって、陰陽寮の学生(がくしょう)たちの地道な学業の様子とか、陰陽寮の中での身分格差の問題とか、政治のこととか自分も知らなかったことがたくさんあって面白かったです。
よくなかったのは、演技力に差があったこと。
山崎賢人さんや染谷将太さん、陰陽寮の中の人たち、村上天皇などはかなり達者な役者さんばかりだったんですが。徽子女王の演技があんまりだったのと、女御たちも棒読み演技でそこが残念でした。
あと着物。烏帽子は透け透け。これ、最近の流行なんでしょうか。大河ドラマもこれなんですよね。髷見えたら意味がないのではと思ってしまう。
最大に気になったのは上半身裸で、流石に乳房は出せないから長袴を胸まで上げてるスタイル。
確かに上半身裸で単衣だけ羽織ってる絵は残されてますよ。だからって貴族全員がそのスタイルっておかしくないか?というのが疑問でした。当時の貴族達の考え方や羞恥の基準が分からないのですが、たとえば客前以外ではカジュアルにそうやってるけど、政の話をするときや、徽子が初めて会う晴明と話すときも半裸なのか?という疑問がありました。
狩衣を着崩して着ているのはリアリティある感じでよかったです。
陰陽師や平安時代(ひところでそう言っても何百年もあるので生活の流行もめちゃくちゃ変化してるでしょうけど)について詳しい、原作の夢枕さん、漫画家の岡野さんも関わってる作品(岡野さんは直接じゃないけど入場特典第二弾に参加)だし、監督も詳しい方だそうなので、”分かってて”やってるんでしょうが。
そこが気になったな。
晴明と博雅が徐々に友情を深めていくのもよかったです。博雅の扱いが雑で不憫でしたけど(苦笑)。狐の子、忠行殿のコネ、などと影口叩かれてる晴明にとって、貴族なのに同じ目線で接してくれて怒ったり喜んだりしてる博雅と居て心が安まるときがあったんじゃないかと思いました。
龍笛を吹くシーンはよかったです。晴明の悪口を言われて言い返すときの博雅もよかったな。あれすごく難しいシーンだったと思いました。
雷公、菅原道真を召喚というかその力を使っての術が格好良かったです。
呪文も「父は安倍益材、安倍晴明が命ず」と父親の名前をちゃんと出して名乗りを上げているのがよかったですね。これ多分初めてじゃないかな。岡野版漫画「陰陽師」でも白比丘尼を鎮めるときに確かこの名乗りを使ってるんですよね。そのときは母親の名前も言ってた。
色々不満はあるけど、現実的な陰陽寮のことを描きつつ、陰陽師の呪術に夢もってる人たちの期待も裏切らない、絶妙なラインで描いている作品だと思います。