良作

日日是好日」を観に行きました。

 

映画館のラインナップを眺めていて「どれも面白くなさそうだな」と思っていて、でもせっかくの休日だし最近映画を観ていないのでどれか観たいと考え、普段は観に行かないであろう日常ほのぼのゆったり系に見えた日日是好日を観に行くことになりました。

たとえストーリーが退屈でも、黒木華さんと樹木希林さんが出てるから耐えられる映画になってるだろうと思って。

 

こっからネタバレ有りの感想です。

 

 

とても良い映画でした。

今の自分がこの映画に出会えてよかった。そういう映画はなかなか無いものです。

面白かった、わくわくした、そんな映画はたまにある。

でも人生において、それも今この瞬間出会えて良かったと思える映画は滅多に出会えないです。だから、この映画はよかったけど何回も観に行きたいわけじゃなくて、「今日の今この時の自分の気持ち」にぴったり合っていたから、そこに感動しました。

 

お話は、主人公(黒木華)の子供時代の思い出語りから始まります。

家族四人で「道」という映画を観に行ったという話(あれか、高橋大輔さんがバンクーバーで踊ったときに使った曲が使われていた映画?)。

そのときは面白さが分からなかった主人公は、いつしか20歳の大学生。

やりたいことははっきり決まらず、周りは徐々に就職活動を始めている。

そんなときに、親類?のおばあさん(樹木希林)がお茶の先生をやっていたことを母親から聞かされ、お茶を習うように勧められる。イトコ(多部未華子)の方が乗り気で、二人でということならと二人でお茶を習いに行く(華さんと多部さんの二人がとても良かったです。多部さんのパッと華やぐ感じと、華さんのしっとりした感じと)。

 

ここから20数年に渡るお茶教室が始まります。

季節の移り変わりを、二十四節気の言葉が画面で知らせてくれて、字体含めてとても趣がありました。

掛け軸も、生花も、日によって変わる。季節によって。この季節だからこの掛け軸なのかなとか思いながら観ていくと面白い。

 

お茶の先生は「只者ではない」という母親の触れ込みがありましたが、劇中は特にそれが描かれているわけではなく。ただ、お茶の先生ですから手つきはなめらかで綺麗で丸みがあって、お茶目なところもあったり、そして主人公たちお弟子たちの心を見透すかのように振る舞う優しい人物として描かれていると思いました。

 

お話自体は何が起こるというわけじゃないけど、主人公の生き方がすごく分かる部分があって共感しました。

 

お茶習いたての頃は上手くいかない。ふくささばきから学んでいく。

夏のお茶作法をようやく理解したと思ったら冬のお茶作法へ(夏冬あるんだと初めて知りました。今回は裏千家なので、他はまた違うかもしれない)。

上手くいったときに嬉しいと思う気持ち。

ようやく会得したと思ったら、次の山が見えて尻込みする感じ。

分かるわーって思いました。

友人でもありイトコである子は、快活で、海外旅行も一人で行ってします。就職も順調で商社に勤める。でも、実はやりたいことがなく、先がしっかり見えるからなのか会社での仕事も限界を感じ、実家に戻って見合い結婚して専業主婦になる。

学生時代は身軽に動いていたのに、実家に戻って見合いという流れがとても意外でした。

一方の主人公は、物書きの仕事には就きたいけれど就職はできず、出版社のバイトを続けることになる。でも、それはいずれ「フリーライター」と呼ばれる仕事になっていきます。

箱入り娘で真面目で固い主人公の仕事がフリーライターというのも、また意外だと思いました。

 

イトコは実家に戻ってしまいましたが主人公はお茶教室には通い続けています。

いつの間にか10年。

後輩もたくさんできて、アドバイスする立場になったけれども、「出来る」後輩もいたり細かいお茶の準備については理解が足りていなかったり、先生からもお茶について注意を受ける主人公。自分の存在意義について悩みます。

 

これも分かるわー、と思いました。

10年やってきたからこそ求められる力量、立場。新人の時とは違う悩み、辛さ。

甘えさせてももらえなくなる。

 

主人公はプライベートでも上手くいかなくて、しばらく教室を休むけど、再びお茶教室に行くことを再開します。

 

お茶を通して、水やお湯のわずかな音の差、風の音、雨の音、掛け軸から感じるもの。そういうものも体で感じ取って学んでいきます。

 

父親の死後も、先生は主人公を支えてくれる。

 

日日是好日の意味を、主人公はある日ふと理解する。

 

 

そして、主人公は42歳になります。多分ライターの仕事は続いていたと思うし、結婚もしているかもしれない。そこは描かれてはいません。

先生は88歳頃になりました。

お正月に使うは干支の戌の茶碗。12年前に使った茶碗。もう一度使うときには、もしかしたら先生はいないかもしれない。そんなことを暗に感させられました。

40歳を過ぎた主人公は、次は教える立場へと移っていく。これからが始まり。そんな予感を流したところで映画は終わりました。

 

この映画の好きなシーンは何と言ってもお茶を入れるときの仕草が綺麗で、見ていて飽きない。

あとは、先生が縁側で珈琲を淹れていいるシーンが好きです。