見えない障害の一つです。
主に脳血管障害(いわゆる脳卒中と言われるものなど)の後遺症として現れます。
個人的な体感としては、脳出血や脳梗塞、クモ膜下出血などの患者さんの100%は多かれ少なかれこの高次脳機能障害があると感じています。
ただそれがものすごく軽いと気づかないし、軽ければ日常生活に然程影響を与えないこともあります。
問題は、高次脳機能障害がある、とはっきり言えるんだけど本人に自覚もないし家族もあまり認識していないという場合。
数年前に法律が改正されたため、脳血管障害を患ったら運転免許の更新の際には届出(というかチェック欄にチェックする)と医師の診断書が必要になります。地域によっては公安の判断が緩くて、普通に更新出来てしまうところもありますが(もっと最悪なのが病院が甘い判断をしてしまう)。
他にも適正検査が必要な疾患はあります。認知症もそう。有名どころで言うと「てんかん」がそうですね。
ただ、実際は黙って運転してしまう方もいます。黙って運転して、もし事故を起こしたとき、保障が受けられない可能性もあります。
運転再開にあたって、病院では神経心理学検査や運転シミュレーターでのチェックを行うんですが、これがなかなか難しい。
まず本人に病識を持ってもらうこと。そして家族の理解を得ること。
病院内の日常生活に支障をきたしていない患者さんの場合は特に説明が難しく、こういう障害があるんですよと伝えるだけでは本人も家族も「歳だから」「元々せっかちな性格だから」「こんな難しい検査は私でも出来ませんよ」と言われることが多いです。
年齢別平均値を指標にしているのと、いくつかの検査を総合して判断しているので年齢は言い訳になりません。
性格だから、で説明できる状態ではありません。
やってもいないのに出来ないと決め付けないで。健常者なら出来ます。当時偏差値40しか無かった自分でも突破できた検査です。
高次脳機能障害、そして、この障害があるから自動車運転再開がすぐに出来ないのだということをいかに分かりやすく、説得力を持って伝えるのか。
場も大事になります。
個人的に気をつけているのは、まずは医師にこちらから事情を説明して協力してもらいます。
医師と家族の面談後に医師から「ではこの後は担当の作業療法士に細かい話をしてもらってください」と家族に伝えて頂き、個室でフォーマルな場を設定します。出来れば自分以外にももう一人職員(看護やソーシャルワーカー)に同席してもらいます。
「いち作業療法士が勝手に判断して言っているのではない」「これから話すことは医師も承知のこと」を分かっていただきます。
自動車運転は地方に住む人にとって死活問題です。
免許更新OKにしてあげたい。何度も心が折れそうになるときがあります。明らかに見落としが多い人はともかくとして、ギリギリのラインの方は悩みます。
車の通りが少ない所しか運転しないのであれば・・・。
でも、運転は自分だけではなく他人を死に至らしめる可能性がある「活動」。色んな作業活動がある中でも運転は最も慎重にならないといけない。運転OKの最終決断を出すのは公安委員会ですが、その指標のひとつは病院が出す診断書になります。病院側にも責任が相当あります。
運転シミュレーターのチェックも、不合格項目が多いと6ヶ月後に再検査になるので検査に踏み切る時には相当慎重になります。
本当に分かりにくい障害です。普通にしゃべれる、一人で食事もトイレも入浴も買い物も料理も外を歩くこともできる、電車も乗れる、スマホの操作もできる。
なのに運転出来ないってどういうことかと、本人も家族も疑問に思うのも無理はない。
運転基準の検査項目は、これといった統一された検査はなく、各々の病院で独自にルールを決めているのが現状のようです。もちろん文献はたくさん出ているので、これが必要だろうと思われる検査はいくつかあって、自分の体感としても「この検査が出来ないなら運転は難しいな」と思うことも多いです(紙面検査が不合格だった方に実際にシミュレーターをやってもらったらやっぱり見落としが多い、という現状がある)。
まだまだ奥が深い。
理解しきれない領域。
日々勉強です。