太宰治関連

どうして興味を持たなかったんだろう?と今になって不思議に思います。

太宰治は何度か自殺未遂、女性と心中未遂(女性だけが亡くなったことが一度)を繰り返し、最後は愛人と心中しました。

そんなだらし無さと下衆さがあると分かっていながらも、だからこそ、正しい人ではないからこそ作品に救われることもありました。自分が落ち込んで駄目になりそうな時に。

そんな中で、どういうわけか愛人のことをあまり知りたいとは思わなかったんです。

人間失格」と「斜陽」と現実の太宰治がごちゃまぜになっているのか、その死んだ愛人は何処ぞのカフェ女中か水商売の人で無名の人だと思っていました。

というのも、太宰治は既に酒に溺れた生活をしていて、しかも妻子がいるわけですからそんな太宰に近づく女性もあまり良い生活をしていないのではと思っていたからです。

 

今年、今になって太宰治生誕110年記念展に行って、太宰の娘さんが作家であることを知りました。更に調べてみれば愛人の太田静子の子供さんである太田治子さんも作家。

 

じゃあ、その娘さんたちの母親、つまり愛人たちはどんな生い立ちでどんな職業の人だったんだろうか。調べてみたら、山崎富栄さんは美容師。しかもその父親は、当時は下に見られがちだった美容師という職業の立場を高めるために日本で最初に美容師学校を創設した人。富栄さんも単なる美容師ではなく、宮中で勤められるレベルの技術を持った方だったそうです。

斜陽のモデルでもあり、日記提供者である太田静子さんは上流階級の方。

元々小説家希望で、太宰の死後は生計を立てるためにも小説を何冊か書いています。

 

山崎富栄さんが「酒場女」などと水商売の人だとか、良い性格ではなかったとか、心中を先導したのは富栄だったとか、川に飛び込む前に富江が太宰を絞め殺しただとか誤解された人物像を広められたのは太宰の死から数年後のことのようです。

理由としては、太宰と敵対していた作家たちが太宰憎しの次いでに富栄もバッシング、太宰を奪われたことによる嫉妬ややるせなさからなのか太宰の仲間たちが富栄をバッシング。簡単に言うと、そんな流れがあったようです。

 

そんな山崎富栄さんの名誉回復の為にも書かれた「恋の蛍」を読みましたが、思っていたよりも客観的データというよりは作者の思いがこもっている小説だと感じてしまいました。どの部分がどのデータから取ったのかが分からないから、これは作者の創作?と思う部分が多々。

それよりも山崎さんの日記(雨の玉川心中)を読んだ方が分かりやすい。それと並んで太宰が当時弟子に送った手紙を合わせて見ると良いです。

自分の感想としては、心中を持ちかけたのは太宰なんだろうけど、富江は元々一緒に死ぬ覚悟だったからどちらがどうって訳ではないのだろうと思います。

結核の太宰を献身的に支えたといえば美談ですが、まだ富栄には夫が居たにも関わらずに妻子がいる太宰と寝て、その後太宰から一応別れ話を持ちかけられたのに断らなかったので、富栄は悪い女か良い女かで言えば悪い女でしょうと思います。

ただ、ライバルである太田静子が太宰の子を宿さなかったら・・・事態はまた少し変わっていたかもれいません。

一番かわいそうなのは正妻の美知子さんかと思います。それはまた彼女の著書を読まないと心情は分からないですけど。

 

「恋の蛍」を読んで、これは嫌だなと思ったのは太宰の周りにいた文人や出版人たちが富栄の有りもしないこを言いふらして貶めたことです。

死して尚。これは山崎家の方々は大変苦労したことだろうなと思いました。

 

 

太宰の死については、税金の未払、結核の進行、グッドバイがなかなか書けない、家計の苦しさ、女性絡みの苦しさなど色々あって、でも最後に何がトリガーとなったのかは不明です。

それは富栄の日記を読んでも、入水する13日以前の日記が数日書かれていないため、一体何処で何があって玉川に行くことになったのかが分からないのです。

 

斜陽を書き、結核に苦しみながらも人間失格を書き、グッドバイを連載中に死んだ太宰。

喀血したことは周囲も知っていただろうに執筆依頼は続いたことを想像すると、周囲は太宰のことを大切にしていなかったんだなと思ってしまいます。

天下茶屋へ療養計画を企てていた一部の人たち、富栄以外は。

斜陽を機に売れ始めた太宰のことを、単なるお金を産む作家としか見ていなかったのかな、とか。

 

太宰の作品全て読んだわけではないからこれは間違っているかもしれませんが、彼は私生活をもとにした作品が多い印象があります。

ファンタジーのような「走れメロス」も温泉地でのことが元になった作品です。

 

戦争が終わって自由になって、何かに反発する世界でも無くなって、そんなときにイチから想像して書くような「物語」を太宰は書く事ができなかったのではないかと思います。

結局、お酒飲みとか愛人とか心中とか、そんな話になってしまう。

 

どんな気持ちだったんだろうと思っても、想像するしかありません。残された文章も、率直に語っているようで、どこかでおどけていて、真意が見えにくい。

 

人間的に酷い人であることに変わりはないけど、この数日色々読みあさって、それでも私は「斜陽」が好きだということは揺るがないなと思いました。